「パニックルーム」
 住宅の設計を依頼され、クライアントの希望諸室の欄に「パニックルーム」とありました。確かジョディ・フォスター主演で同じ名前の映画がありましたが初めてのことなので計画手法が分からず手探り状態からの出発です。しかし、家全体を設計する上でもこの部屋の所要設備を知らなければ先へ進みません。
  まず設備を担当する事務所に聞いたのですがパニックルーム設計の経験や資料が無いとの事でした。それではと大学に残っている後輩に調べてもらうと防衛関係施設にこの手のものがあり、その資料によると一旦パニックがおきた時締め切りの部屋に閉じこもる上で数日分の酸素を確保する事が第一でその方法として地下など別のスペースに空気容量として4〜5名分で最低600m3の容積が必要との事でした。これは本格的過ぎパニックルームだけで一般の住宅1軒より大きなものになってしまいます。
  一方、酸素ボンベによる酸素供給の方法があるのですがボンベの容量や入手手続き、そして保管方法やメンテナンスで問題があります。
 何だかんだ調べが進んでいくうちにスイスのメーカーがシェルター用として核爆発等の高熱に耐え、ガスやサリンを排除する給排気機械システムを発売しているとの事が分かり日本でこれを取り扱っている業者に問い合わせることにしました。給排気機器のスペックは理解できるものではありませんでしたが、給排気の考え方は十分理解、納得できるものでこの方法を採用する事にしました。
  パニックルームは家族4〜5人が雑魚寝できる大きさで6帖、気圧を調整する前室1帖、前述の機械換気室1帖で合計8帖となりますが壁や扉が厚いので実際には10帖分のスペースが必要となりました。
 設計から竣工まで2年と2ヶ月を要した住宅が完成し引渡日、施工業者が行うパニックルームの使い方説明を聞きながら、このパニックルームを核シェルターとして使う日が来てはならない、またそんな国にしてはいけないと心から思ったしだいです。   (参考 Concept へ )
'08.12.20 平野敏之